今回は京都・観光文化検定試験(京都検定)1級に全盲者・点字使用者で初めて合格された長尾博さんにお話を伺います!

長尾 博さんのプロフィール

長尾 博(ながおひろし)、1958年滋賀県生まれ(チキンラーメンくんとは同級生)

滋賀県立盲学校の教諭として約30年、幼稚部から小学部・中学部・高等部普通科、そして理療科といった盲学校のすべての学部・学科にて指導。主な担当領域・教科は、「自立活動」、「中高社会科」、「盲重複教育」、「盲情報教育」、地域支援のため県内を巡回相談。

その後、滋賀県立視覚障害者センターにて就労支援員、滋賀大学教育学部非常勤講師を経て、2013年度より宮城教育大学特別支援教育講座教授。現在は滋賀大学、びわこ学院大学で非常勤講師(学校心理士、点字技能師、京都・観光文化検定1級)。

(ホームページ「ムツボシくんの点字の部屋」(http://mutubosikun.boy.jp/)より抜粋)

 

インタビュー

合格おめでとうございます。京都検定を受検しようと思ったきっかけはなんですか?

仙台で視覚障害教育学を教えていた。視覚障害教育学っていうのは、視覚を用いない学習という感じ。点字の読み書きや勉強方法はもちろん、体をいかに動かすかという体育系も含めて。その中で観光もテーマに扱う。視覚障害者と観光についてあまり書いたことがなかったから、ホームページに「ムツボシくんの手でみる旅のガイド」というコーナーを作った。「手でみる」というのは、視覚を用いないことの象徴で、もちろん耳で聞いてもいいんだけど。

今はどの町にも観光ボランティアがいて、連絡すると観光名所を案内してくれるんだけど、出張のついでとかであちこち行ったね。話を聞くだけのとこも、触れそうなものがたくさんあるところもあって。そんな当たり外れはあるけど、その中で面白そうなとこを記事にしていた。だから京都に帰って来たときに、こっち方面はまだ書いてないし面白いかなと。それなら京都のことを知るためにも京都検定受けようと。そんな、ごく自然な流れで。

 

どんな風に勉強をされましたか?

僕が受けた頃が第16・7回頃。サピエ図書館に過去問題集の点訳が4つだけあって、それを点字データで読むことから始めたけど、これでは足らんなと。京都検定は公式テキストを出していて、2・3級だとその中から6・7割くらいは出る。でも公式テキストのデイジーも点字もない。ということで京都ライトハウスでテキストデータにしてもらった。テキストデータにしたのは、点字で受検させてくれないから。漢字を覚えなあかんのよ。そうなるとテキストデータが早いでしょ。

“公式テキストは必須なんですね。2・3級は選択問題で、1級は記述問題なんですよね。”

1級は全部記述。だから漢字をコツコツ覚えないと対応できない。公式テキストをほぼ覚えたら2・3級はいけるんじゃないかな。1級を受けるなら、もっと過去問をしないとと思って、点友会さんに点訳を依頼した。元点友会の人なんかも紹介してもらって、5・6冊点訳してもらったかな。あとはもう、サピエで京都の歴史関係のものを何冊か読んで。なんやかんや歴史が中心ですね。神社仏閣のいわれみたいなのも、いうなれば歴史でしょ。

あとは、インターネットで調べる。インターネットなかったらなかなか大変。京都検定くらいになると、ブログ書いてる人が沢山いはるんやわ。熱心な人は、自分で予想問題作ったりもしている。

出題内容は歴史・神社仏閣・出身人物・しきたり・和菓子・お土産・京野菜・伝統工芸・京都にまつわる歌舞伎の演目や謡曲の話とか、何が出てもおかしくないのよ。名木の名前とか、木の種類も問われる。謂れのある橋の名前とか(笑)。そういうものを足していって、オリジナルのノートを作っていく。またそれを、上手にまとめてインターネットに公開してくれる人もいる。だから、ネットは本当に役に立つ。

“勉強範囲の際限がなくて恐ろしい世界ですね!”

京都検定はもう20回くらい試験をしてるから、出題者も出す問題がなくなってきていて難易度がとんでもないことになってるね。初期の1級の問題は、今の2級くらいのレべルなのよ。落語は今回出たから、次は出ないだろうみたいな予想も大切。

自分のノートを作っていくと、だんだん可愛くなってくるねん。修正したり、追加したり、そうやって育てていくのは可愛いもんやね(笑)。でも、膨大になっていくノートを覚えるのが大変!4択だとうろ覚えでもなんとかなるけど、そういう意味で2級と1級には大きな差があるね。

 

京都検定という資格を生かしてやってみたいことは?

見える人なら京都市のガイドができると思うけど、僕ができることと言ったら、見えない人に向けて自分のホームページとかで情報提供すること。見えない人の観光って、食べる・買い物・温泉・好きなら電車ともあるけど、それだけじゃないですよ、景色とか建物とか、あきらめていたようなことでも、こんな風にしたら楽しめるよってことを伝えていきたい。でも見えない人への情報ってないでしょ。例えば、清水寺に行って何を楽しむのって話でしょ。ここを触ってきたらとか、ここお願いしたら触らせてもらえるよ、とか。イメージとしては、修学旅行どうしよう…って悩んでる先生のヒントになるようなもの。そういう役に立つものを提供したいなと考えてます。私が視覚障害の仲間を案内しているYoutubeがありますので、よかったら見てください。」

  • 読売テレビニュースチャンネルより『目が見えなくても…触れて、感じて、旅を楽しむ!全盲の男性が伝える視覚障害者の「観光」』(https://youtu.be/VreIAdzTTK4

長尾さん、お忙しい中ありがとうございました!

 

長尾さんは、ご自身のホームページ「ムツボシくんの点字の部屋」の中で、「視覚障害者がもっと街に出て旅を楽しめる社会にするためのお願い」をまとめていらっしゃいます。以下にご紹介します。

(1) 【模型・レプリカがほしい】

3Dプリンタをもっと活用して手で楽しめる文化財を増やしてください。特に建築物や仏像はムツボシくんも言葉だけからのイメージには限界があります。見えないということは、育ってきた自分のおうちの屋根の形もお母さんの顔もみたことがない!ってことなんです。

(2) 【地図が少ないのです】

指で読み取れる点図の地図をもっと作ってください。まだまだ身近な自分の観光地の点図の地図がありません。街歩きのためのイラストマップも点図で指で読みたいのです。そもそも、この点図の地図を作成してくださるボランティアが少ないのです。

(3) 【仲間よ、街に出よう】

見えないから観光なんてつまんない!なんて言わないでください。視覚を用いない旅って食事だけでしょ、たのしみは…?なんて言わないでください。そんな人はぜひ「手でみる旅のガイド」をみてください。中途で視覚障害者になられた方、点字なんて今更読めないなんて言わないでください。点線やマークでできた点図の地図ならだれでも読み取れます。地図を持ってガイドヘルパーと街歩きを楽しみましょう。

(4) 【初めての体験がしたい】

見えなくてもできる体験を増やしてください。見えないとすぐに「見えないと危ないのであなたは参加してもらえません」なんて偽善ぶったお断りがまだまだはびこっている日本なのです。先日なんてある水族館のバックヤードツアーに申し込んだのですが、ムツボシくん、しっかり断られちゃいました。「雨水がたまっていたり物があちこちに置いてあるから危ないんです」ですって。これって優しさの仮面をつけた排除の論理そのものだということにそろそろ気付いてほしいものです。

長徳寺の桜と映る長尾さんの写真

 

 

 

 

 

 

 

 

長徳寺の桜と長尾さん(写真は「ムツボシくんの点字の部屋」より)