少し前の話。新型コロナウイルス感染症対策に、貸出のカウンターや読み書きサービスに取り付けるビニールカーテンの参考に…と、とあるホームセンターに立ち寄った。すると出入口付近で出迎えてくれたのが、扇風機の数々。涼を取りながらしばし商品を眺めていると、高度な首振りの機能性たるや、あらまあ、最近の扇風機はどうしたの、と言わんばかり。一定のリズムで左右に行ったり来たりするだけでなく、ラジオ体操よろしく、天を仰いだり下を向いたり。首を回す運動をしたり、はたまた八の字に首を振ったり。ただただ感心していると、そのお隣にあったのが「音声で操作できる扇風機」。「はなのぼう」「京まる」読者の中には、すでにこの扇風機をお使いの方もあるだろうが、近所のホームセンターでお目にかかれるとは思いも寄らなかった。

商品と一緒に掲示している使用ガイドを見ると、音声認識の合図は「せんぷうき すたーと!」。すると扇風機が「こんにちは!」と答えるので、その後どうしてほしいかを声で指示する。「よわくする」「つよくする」「くびふり」など、決められた指示に対して扇風機は「はい」と答え、従う姿は実に従順。ちなみに電源を落とすときは、「きってください」。これに対しては「おやすみなさい」で、電源が切れる。なんといじらしい。うちの子たちなぞ文句こそ言え、「はい」なんて言わんぞ…などとブツクサ独りごちながら値段に目をやると、おお、思ったほど高くもない! これはおもろいな、買って帰ろかな〜、とも思ったが、よくよく考えると大きな箱をかついで歩いて帰るのは大変、と判断。時計を見ると、あら、そろそろ良い時間。そもそもまだ長居は憚られる時期だ。「くびふり」などと声を出して実際に試さなかっただけ、せめて良しとしよう。自分に甘い反省も少しばかりしつつ、いやでも、大阪弁でもちゃんと動いてくれるんやろか、なんて疑問を持ちながら、帰路についた。

そしてふと我に返る。あれ? ホームセンターに、何しに来たんやっけ?

暑さのせい、としたかったが、当然ながら今ほど暑くはない時期だった。

(情報ステーション「はなのぼう」 2020年8月号より)