「不思議の国のアリス」。アリスはウサギを追いかけて穴の中に入り込み、そこで不思議なキャラクターたちと出会い冒険を重ねていきます。が、それらは姉の膝で眠っていたわずかな時間に見た夢の中の出来事でした。

「一炊の夢」。若者が、立身出世の道をひた走り栄華を極めて安楽な一生を送る夢を見ます。でも眠りから覚めてみれば、火にかけていた飯すらも炊きあがらない程の短い時間にしかすぎませんでした。

どちらも夢で幕を引くいわゆる『夢オチ』物語です。アリスではファンタジー感を、一炊では人生の儚さを効果的に語っています。この手法の物語が心に染みるのは、人の世に起こることはすべて空しいことを伝えるからでしょう。

さて、十二坊の桜もすっかり若葉に変わりました。でもついこの間まで、満開の花を楽しませてもらいました。どうせ散る。だから楽しむ。一瞬にして過ぎて行く今の時間を楽しむことが、この空しさに色をつけるようです。

(五十嵐 幸夫)