「続日本紀」によれば、いまから1300年余り前の和銅元年(西暦708年)の8月、我が国最初の通貨とされる『和同開珎』が発行されています。当時の社会事情の中ではなかなか流通しなかったようですが、律令政府が推進する貨幣制度の始まりは、人々のお金にまつわる悲喜こもごもの物語の始まりにつながっていきます。

さて、近世日本文学の代表作に「雨月物語」があります。上田秋成が著したこの作品には9編の怪異小説が収められ、どの編も日本や中国の古典等から着想を得ながら、豊かな情感、流麗な文体、リアルなストーリー展開で構成され、読み本というジャンルにもかかわらず高い文学的評価を受けています。

中でも最終編の『貧富論』は、人とお金にまつわる怪異譚で、今の時代でも興味深く読める作品です。
ある夜、金銭を大切にする武士の枕元にお金の精が現れます。日ごろ大切にしてくれるお礼を述べ、お金の立場からお金が貯まる道理を語り、お金に固執することを潔しとしない風潮を、お金の効用を重んじない点で賢明ではないと断じます。そしてお金は非情、蓄財は技術、富は流動するなど経済の基礎理論を展開します。

清貧、知足、恒産恒心等々、豊かな生活のイメージは人それぞれです。けれどもお金とかかわらない生活は考えられません。近世日本文学にはお金と人間にまつわる物語が井原西鶴の作品をはじめとして数多くあります。今さらとお思いにならず、お読みになればきっと新しい発見があります。情報ステーションがご案内します。

(五十嵐 幸夫)