「わかったつもりのかたつもり」第5回は、前回に引き続き情報制作センターで点字校正をされている松村さんに、新婚同志ということで鳥居寮の久保がインタビューしました。

久保 前回のコラムでもお話がありましたが、松村さんは昨年ご結婚されたばかりということで、今日はそのあたりを少しお聴きできればと思っています。松村さん自身は視覚に障害をもっているわけですが、そんな自分が結婚するなんていうイメージはもっていましたか?

松村 正直あまりなかったですよ。このライトハウスで働くようになって、自分にも余裕ができてきてからのことだと思います。

久保 視覚に障害をもっていることで、恋愛や結婚にも消極的になってしまうという人もおられると聞いたこともあるんだけど。

松村 消極的というわけではなかったですが、確かに私も働いていない頃は、結婚なんてことも考えてはいなかったですね。

久保 奥さんは晴眼者の方で、同じマラソンサークルで知り合ったとお聴きしていますが、結婚に踏み出すきっかけのようなことはありましたか?

松村 具体的に「これ!」ということはなかったと思うのですが、時々一緒にマラソンを練習していく中で、「この人なら一緒にやっていける」という感覚をつかめたことでしょうね。もちろん人同士ですから、性格も違う。価値観が同じところもあれば、これまた違うところもある。でも、違うところがあっても、どうにか互いを尊重し合いながらやっていけるかな、と思えたんです。

久保 お相手が晴眼者ということで、不安に思うことや、松村さん自身が引け目を感じるようなことはなかった?

松村 それはなかったですね。所属しているマラソンサークルでも、視覚障害者と晴眼者というカップルもいましたし、実際に結婚されている方々もたくさんおられます。不安という意味では、私たち夫婦よりも、両親のほうが強かったんじゃないかなと思います。妻のお母さん、つまり私の義理のお母さんにあたるわけですが、以前アイマスクをして食事する体験をした時、食べ物をうまく口に運べなかったそうなんです。で、「視覚障害の人は一人で食事できないのでは」と、少し心配にもなったそうです。向こうのお母さんからすれば、もっと心配されたこともあったのではないでしょうかね。久保さんのほうはいかがでしたか?

久保 私のほうは、妻のお母さんと同居になりますので、初めのうちは、食事のとり方や家の中での移動なんかの生活の一つ一つの場面で「どんな風に見られているのかな?」という、緊張感のようなものが少しありましたね。でも、その緊張感も、初めのうちだけでしたよ。

松村 妻の実家にも結構行くことがあるんですが、今はそれなりに慣れてきましたし、こちらが身構えることも特にありません。

久保 奥さんもお仕事をされているということで、家事の分担なんかも決まってるんですか?

松村 え、決まってますよ。私は、洗濯物を干す・たたむ、食器洗いや掃除なんかもしています。してないのは料理ぐらいですかね。

久保 結構やってるんですね。奥さん大助かりですね。

松村 妻と仕事の時間帯も違うので、できることはなるべくしています。

久保 じゃあ、奥さんと一緒に過ごす時間もあまりないですねー。

松村 二人とも仕事をしていますから、仕方ないですよ。だから休みの日を大切にして、一緒に過ごせるようにしています。休みの日は、お互い趣味がマラソンですので、一緒に走りに行ったり、買い物に出かけたりしていますよ。

久保 一緒に暮らすようになって、お互い「びっくりした!」ってことはありましたか?

松村 晴眼者である妻との「時間的な感覚」の違いに驚きましたね。前回もお話しましたが、見えない私が何かをするにあたって、安全に、そして効率よく行うための時間と、妻が同じことをする際の時間が違う。「予定をそんなに詰め込んで大丈夫なのかな?」と心配することもあったりするんですが、妻はそれができてしまうんですよね。簡単にいえば「視覚障害があると何かをするにしろ時間がかかる」ということなんでしょうかね。それに私一人で買い物すると、どうしても店員さんやヘルパーさんにお任せになってしまいがちですが、「見える」ということで、いい商品や安いものを選ぶことができるということも、改めてびっくりしました。

久保 逆に奥さんのほうはどうでしょうか?

松村 妻にとって、見えない私がパソコンを使っているというのは、びっくりしたんじゃないですかね。

久保 そうかもしれませんね。視覚に障害がある人でも、音声を聴きながらキーボードを使ってパソコンを操作するってことは、まだまだ知られていないですからね。

松村 それから、私は点字使用者ですので、私から見れば当然のことなんですが、家の中に「点字」がたくさんあふれていることも驚きだったんではないでしょうか。私自身は他の視覚障害者から比べると、点字を読むスピードがさほど速いとは思わないのですが、妻から見れば「点字ってこんなに速く読めるんだ」というのも、ちょっとした驚きだったかもしれません。

久保 最後になりますが、結婚生活とは少し離れて、このライトハウスで働いている一人の視覚障害者として何か伝えてみたいことはありますか?

松村 そうですね、このライトハウスの中にも、いろいろな部署で視覚障害者が働いています。視覚に障害があっても、できることはたくさんありますので、企業や行政機関でも、視覚障害者が働けるように、まずはチャンスを与えてほしいな、と感じています。

久保 さすが!仕事も、そして家事もこなしてる松村さんなりのご意見ですね。松村さん、2回にわたり、どうもありがとうございました。

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男談義に花を咲かせたお二人です。