※同じ視覚障害をもつライトハウス職員が、視覚障害をもつ方々の「生の声」を、お伝えしていくこのコーナー。第4回目は第1回目からのご登場! 岡田太丞(おかだ たいすけ)さんに、岡田さん独自の啓発活動についてお聞きしました。

第4回 岡田太丞(おかだ たいすけ)さん

久保 岡田さんは、一人で外出されることも多いとは思います。その際、いろいろな方から声をかけられると思います。声をかけてくださった方に「サンキューカード」というカードをお渡しになっているとお聞きしましたが、そうするようになったきっかけなど、教えていただけますか?
岡田 ご存じだということは嬉しいですね。そのサンキューカードについてはお名前を出してもいいのかなあ。京都の松永信也(まつなが のぶや)さんが、お声を掛けて頂いた方々に「ありがとうカード」というものをお配りになられているということを聞きまして、「これだ!」と思いまして、直ぐに作成して配るようにしました。
久保 松永さんからのお話しを聞かれたのはいつ頃ですか?
岡田 一昨年の12月に私が京都で講演をさせて頂いた時です。お話しを伺って直ぐに、カードのイメージは出来上がったのですが、作るのに少々手間が掛かりましてね、実際に配り始めたのは2,3ヶ月後のことでしょうか。
久保 岡田さんがご自分でお作りになられたのですか?
岡田 まさか。私は出来上がったイメージを言葉にして、それを名刺作成の業者に依頼しようと考えていたんですよ。で、その話を家内にしたところ「そんなん依頼するぐらいやったら私が作るわ」と言ってくれまして・・・。まあ、家内がそこまで言ってくれるのならお願いしようかとなりましてね。
久保 優しい、いい奥様ですね。羨ましい限りです。
岡田 とても優しい、いい奥さんですよ・・・(笑)
久保 で、そのサンキューカードですが、どのような内容なのですか?
岡田 カードの左上に四葉のクローバーがあって、右上に英語でThank you! とあり、その下に、「今日はお声をかけて頂き本当に有難うございました。これからも白杖を持った人を見かけられたら、是非お声掛けください。今日があなた様にとりまして良い1日となりますように!」といった文章が書いてあります。
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私の場合、単独で会社へ通勤していますから、時折お声を掛けて頂きます。手引きして頂いた後に御礼と共にカードをお渡ししております。
久保 カードを受け取られた方々の反応はどうですか?
岡田 有難いことに皆様とても喜んで下さいますね。中には私が名刺入れを出すと「名刺は結構ですよ」と先におっしゃる方もおられますが・・・(笑)。そんな時には僕も笑いながら「いや~、名刺ではないのですが、御礼の気持ちとして、こんなカードをお配りしているのです」と言いながらお渡ししています。
久保  岡田さんが松永さんのお話しを聞かれて「これだ」と思われたとありましたが、その「これだ」に含まれているところはどんな思いだったのですか?
岡田 そうですね、私はお声を掛けて頂いて手引きして頂いた方々には、漏れなく御礼を申し上げているのですが、時には一人で大丈夫だと思った時には、「お声を掛けて頂きまして有難うございます。ここは慣れていますので一人で大丈夫です」と手引きをお断りすることもあります。でもですね、その後に、せっかく勇気を出してお声を掛けて下さったのに、御礼を言ったものの、お断りして申し訳なかったなあ~と、反省することも多々あるのです。そのお声を掛けて下さった方は、私がお断りしたせいで二度と視覚障害者にお声を掛けてくれないのではないか・・・と、これまた自己嫌悪なんです。
久保 確かに慣れた場所等だったら、お断りすることもありますよね。でも、岡田さんのように御礼を言ってからお断りされるなら問題はないのではないでしょうか?
岡田 それならいいのですが、本当はその時に「これからも白杖を持った人を見かけられたら是非ともお声掛け願います」といった一言を添えられれば良いのですが・・・。もちろん、言える時もありますが、相手とのやり取りの中で、ついつい言いそびれてしまうことがあるのです。で、そういった自分の思いを何とかして上手く相手に伝えられないか・・・と漠然とですが考えていた時に松永さんの「ありがとうカード」のお話しを耳にしまして、頭の中で点と点がビビッと結びついて「これだ」になった訳です。
久保 それで岡田さんが常々お考えになられていた内容をカードに記入して、その思いをカードに託す形で「サンキューカード」が出来た訳なんですね。
岡田 まあ、そういったところです。京都ライトハウスのホームページ内の「輝く視覚障害者」のコーナーで取り上げて頂いております、私の内閣府への作文の中でも書いておりますが、私の夢は「日本全国民のガイドヘルパー化」なんです。
久保 日本全国民のガイドヘルパー化ですか? とってもいい響きですね!具体的にはどのようなお考えなのですか?
岡田 はい、我々視覚障害者が普通に単独で歩いて、目的地に辿りつける、そんな世の中です。具体的には、私が、そうですねえ、今まで行ったことのないAといったところまで行こうと外出したとします。白杖を持って一人で歩いていると、誰からともなく「どこまで行かれるのですか?」と声を掛けて下さいます。私が「Aまで行きたいのですが・・・」と言うと、声を掛けてくれた人は「Aまではご一緒できませんが、途中のBまでならご一緒できますよ」と、まずは私を手引きして、途中のBまで連れて行ってくれる。そして、そのB地点で、また違う誰かが「どこまで行かれますか?」と声を掛けてくれて、私の最終的な目的地であったAまで連れて行ってくれる・・・。街行く人々が常に白杖を持った人に声を掛けてくれて、時には行きたい先まで、場合によっては、その途中まで連れて行ってくれて、そこで別の人にリレーしてくれる・・・。こんな我々が気兼ねすることなく、危険にさらされることなく外出できる世の中を作りたいのです。
久保 それは素晴らしい世の中ですよね。声をかける側も、無理がなく、そして自然にハンディをもった人たちと関わることができますもんね。その一助として、我々白杖を持っている人間に声を掛けて下さる人が増えていくように「サンキューカード」をお配りになられているのですよね。
岡田 はい、とても地道なことですが、たとえ少しずつでも我々にお声を掛けて下さる方が増えて行って欲しいと願いを込めて配っていますし、これからも配り続けて行きたいと思います。
久保 サンキューカード以外で、私たち視覚に障害をもった者のことを広く知ってもらうきっかけとなりそうな手段は何があるとお思いですか。
岡田 難しい質問ですね・・・。きっと色々とあるでしょうから、一番かどうかは分かりませんが、やはりマスコミで取り上げてくれることが、大きな効果を期待できるのではないでしょうか? あと、私が思うのには、松永さんのような視覚障害の諸先輩方が、積極的に小学校、中学校をはじめ、学校に出向かれて「視覚障害とは?」といった感じで、我々視覚障害者がどんなことで困っているのか、どんなことを手助けしてくれれば有難いのか等々をお話しになられていますよね。ああいった活動はとても大切なことだと思います。
久保 そのお話しも岡田さんの内閣府への作文に書かれていましたよね。「障害者教育の義務化」でしたか・・・
岡田 そうなんですね。地道ではあるとは思いますが、諸先輩方のそのような活動がしっかりと根をはやしていると思うのです。
久保 そう思われる具体的な何かがありましたか?
岡田 はい、私が梅田あたりを歩いていると「何かお手伝いしましょうか?」と声を掛けてくれる若者に時々出会います。よく聞いてみると、「昔、小学校の授業に視覚障害の方が来られて色々と教えて頂きました」という答えが結構多いのです。これって、松永さんをはじめ、諸先輩方が地道に様々な学校に行かれてお話しされたお陰だと私は思うのです。
久保 なにかいい話ですよね。でも岡田さんが言われている通りだと僕も思います。そういった意味では、あの岡田さんの内閣府への作文なんかを沢山の人に読んでもらいたいですよね。
岡田 そうそう、その作文について、全くもって手前味噌な話でお恥ずかしい限りなんですが、先日、とても嬉しいことを耳にしましてね・・・。実は、私のあの作文が、とある中学校の道徳の人権の授業でテキストとして利用されていたらしいのです。たまたま私の知り合いが自分のお子さんが持って帰ったプリントを見たところ、「ん? これどこかで読んだことがある」となり、「ああ、岡田さんのあの作文やないの!」となって、私に教えてくれたという訳なんです。もちろん、その学校でのみのローカルな話なんですが、恥ずかしさもありましたが、やはり、嬉しかったですね。
久保 それは視覚障害者の一人としても嬉しい話ですし、今後益々色々な人に読んでもらいたいですね。そして、一人でも多くの方々に視覚障害について理解を深めてもらいたいですね。