※同じ視覚障害をもつライトハウス職員が、視覚障害をもつ方々の「生の声」を、お伝えしていくこのコーナー。

第3回目は第1回目からのご登場!岡田太丞(おかだ たいすけ)さんに、お仕事以外のプライベートでの活動についてお聞きしました。

第3回 岡田太丞(おかだ たいすけ)さん

久保 岡田さんはお仕事以外で視覚障害者の集まりをいくつか立ち上げられたとお聞きしていますが、具体的にはどのようなものなのですか?
岡田 団体を立ち上げたといえば何か大袈裟ですが、設立に携わらせて頂いた会はいくつかあります。もう5年近く経ちますか、働く視覚障害者の会といったものの会を設立するお手伝いをさせて頂いたことがあります。今現在は幹事を退いて一会員として参加させて頂いておりますが、私がまだ幹事だった頃のエピソードを一つお話します。
その頃の私は、企業で働く現役の視覚障害の一人として、視覚障害者であっても、企業で事務職として働いていること、そして、働く視覚障害者の会の存在やライトハウスさんのような訓練施設といったものがある、そういったことを一般企業に啓蒙するというか、知ってもらう活動をしたいと考えておりました。会として、色々な企業に直接出向いて、そのようなことを訴えかけたかったのです。
ただ残念だったのは、私の思いが時期尚早(?)だったのか、当時、私のそういった思いに賛成してくれた幹事はごく少数でした。
久保 それは少し残念でしたね。実際に働いている視覚障害者当事者から、企業等へ向けて発信していくものの意味はとても大きいはずなのですが…。
岡田 その思いを個人的にでも具体化させたいと、一昨年の秋、当時の大阪府の知事だった橋下さんが出演される障害者セミナーに、大手衣類量販店の障害者雇用の責任者がパネラーをされると聞いたので、参加しました。もちろん狙いはその大手衣類販店の障害者雇用の責任者に会うことです。きっと久保さんもよくご存知の量販店ですよ。
当日は参加者が500名以上はおられたでしょうか、なかなかお話できそうな状況ではなかったのですが、だめもとで、係員さんにお願いして、何とかお話できる時間を取っていただきました。
久保 ほー、岡田さんの熱い思いが届いたんでしょうね。
岡田 その時は先方もお時間が無かったので、名刺交換と、ご挨拶だけで終わったのですが、それから私のアプローチが始まったわけです。働いている視覚障害者当事者の立場からの思いや、実際に私が見えないながらもどのような業務に携わっているかなどについて、あまりしつこくならないように、でも先方が忘れてしまわない間に、定期的にメールを出しました。その成果でしょうか、お仕事で大阪にお越しになる時にお時間を取って頂き、弊社にて面談するというところまでこぎつきました。
久保 遂に岡田さんの願いがかなったわけですね。
岡田 で、面談することが出来たら、是非ともやりたかったというか、実現させたいことがあったんですね。それは、せっかくの面談の機会ですので、その大手衣類量販店の障害者雇用の責任者の方と、視覚障害者施設の職業訓練部の責任者の方をお引き合わせることだったんです。
久保 岡田さんがパイプ役になられたわけですね。
岡田 はい、それは、私が働く視覚障害者の会の活動を通じてやりたかったことの1つでしたからね。それに、その大手衣類量販店は日本で1、2を争う障害者雇用の比率が高い企業です。最終的には、そういった日本を代表するような障害者雇用に理解のある企業に、視覚障害者の関係者とをつなぎ合わせたいと考えておりましたので、個人的には大変満足する面談となりました。
久保 その面談内容はどうでしたか?
岡田 はい、予想通りというか、あれだけ障害者の雇用比率が高い企業であっても、視覚障害者のリハビリ施設や職業訓練の存在はご存知なかったですし、とても興味深くお話しを聞かれておられました。最終的には職員採用の際には、職業訓練をしっかり受けた視覚障害者も視野に入れて検討していただけるようになったのではないかと思います。一つ大きな夢がかなった感じがしましたよ。
久保 岡田さんがされたいことはこういったことだったんですね。
岡田 そうですね、少し具体的過ぎましたが、私自身が現役の会社員である間に、自分自身がサンプルとして、企業側への説明材料となり、様々な企業に視覚障害者でも働けることをアピールした上で、もし、その会社が障害者雇用を考える時に、視覚障害者も候補に入れてみようと考えてくれる、そういった、長い目で見ての視覚障害者の雇用率アップにつながる、地道ですが、必要な啓蒙活動、広報活動を、今現在、企業で働いている仲間とともに推進していきたいわけです。そういった中で、つい最近、とても嬉しい事例があったのです。
久保 どんな事例ですか?
岡田 はい、大阪のある会社の話なのですが、その会社は障害者を沢山雇用されているのですが、視覚障害者については採用されたことがなかったのです。しかし、先程申し上げた、働く視覚障害者の会を通してその会社とご縁ができました。
で、その働く視覚障害者の会の幹事さんのお一人、その方は私が当時、幹事としてやりたかった事を理解して賛成してくれていた数少ない幹事のお一人だったのですが、その方が、ある視覚障害者とその会社とのパイプ役をされたのです。
久保 ということは、その方の採用が決まったのですか?
岡田 そうなんです。それで、その会社の担当の方が、何と久保さんと私の対談コラム、そう、この興味 心・深や、輝く視覚障害者に出させて頂いている私の部分等々をご覧になられて、今回、初めて視覚障害の方を採用したということもあり、社員教育の一環として、京都ライトハウスさんのHPを社内のイントラにアップされたいとの申し出があったのです。
加えて、実際に事務職として企業で仕事している私のところに、視覚障害の方と一緒に仕事するにあたって、既存の社員が分かっておいた方が良いことを教えて下さいと連絡がありまして、私の会社での経験からいくつか思うところを話させて頂きました。
先方の担当の方も、私からの話を聞かれるまでは想像もしなかったことばかりで、視覚障害の職員を受け入れるに当たって、とても参考になりましたと連絡があったのです。そして、その視覚障害として初めて採用された方は元気に勤務されているということも耳にしました。これは最近の中でも大変嬉しかったことの1つですね。
久保 それは京都に住む視覚障害者の一人としてもうれしいお話です。まさしく岡田さんがやりたかったことが実現できたわけですね。
さて、岡田さんが設立に携わった団体がいくつかあるとおっしゃいましたが、他にどのような団体があるのですか?
岡田 そうですね、話が長くなって申し訳ないのですが、先程の働く視覚障害者の会とは別に、これも5年少し前になりますが、私と同じ西宮に住まれている、これまた私と同じく中途で視覚障害になられた、会社員の方2名と設立した会があります。こちらは、働くといった堅いイメージではなくて、中途で視覚障害となったサラリーマン3人が顔を合わせて、目が見えなくなっても見えていた時と同じように飲みに行きたいし、カラオケにも行きたい、色々なところへ遊びに行きたいよなあ〜と、遊びということをキーワードにした会なのです。
久保 遊びがキーワードですか、とても楽しそうな会ですね。会の名前はあるのですか?
岡田 はい、もちろんありますよ。今、久保さんが言われた楽しいといったことも含まれますが、楽しいの楽と、喜ぶといった文字を合わせた楽喜の会と言います。それで、呼び方は、ラッキーの会としております。
久保 楽しいと喜ぶでラッキーですか!上手いですね。
岡田 ありがとうございます。そこには、視覚障害者であっても、晴眼者であっても、会に参加してくれた方々が、楽しんで喜べる、そして幸運にも恵まれるようにという願いを込めた命名なんです。また、同じ視覚障害者であっても少しでも見えている方が、より見えていない仲間のことをフォローする、そういった自然な思いやりといった気持ちを持って会に参加してもらっています。
久保 素晴らしい考え方ですね。で、会ではどのような活動をされているのですか?
岡田 はい、キーワードは遊びですので、幹事が会員さんからのご意見を参考にして、様々なところへ遊びに行っております。偶数月ですが、2か月に1度のペースで行なっておりますが、ボウリング大会や、ビール工場見学、ウイスキー工場の見学、お花見、カラオケ大会、バーベキュー、そして時には宿泊を伴うお泊りイベントも企画して実施しております。そうそう、あと、もちろん飲み会もですが・・って、何かお酒にまつわるものばかりみたいですね(笑)。また奇数月には、会のメンバーさんが演者として出演される落語会に出向いております。落語の動きは分かりませんが、基本は話芸ですので、聞いて楽しめるといったことからイベントの1つとしております。そう、夏に行いましたカラオケ大会では、11時から19時まで大盛り上がりでしたよ。
久保 11時から19時までですかー。それは盛り上がりましたね。
岡田 お陰様で、会に参加して頂いた方が、ご自分のご友人をお誘いして頂く等、口コミによって、その輪がドンドンと広がって、12月現在では、50名を超える方々がメンバーさんとして活動して下さっております。中には会のコンセプトに賛同してくれる晴眼者のメンバーも数名おられます。
久保 岡田さんは、その楽しいラッキーの会の取り組みを通じて何かやりたい、チャレンジされたいことがありますか?
岡田 そうですね、チャレンジというか、これは夢みたいなものですが、将来、こういったメンバーでラッキーハウスのようなものを建ててみたいですね。もちろん資金も必要なことになりますので、誰がお金を出すねんって言われたら困るのですが(笑)。あくまで夢なのですが、我々、視覚障害者が遊びや趣味を通して集まれる場所というか、誰にも気兼ねなく、楽しく、喜べる時間を過ごすことのできる、そういった空間というかスペースを作りたいですね。コーヒーの香りが漂う喫茶室に、パソコンを勉強できるITルーム、カラオケを楽しむカラオケルーム、仲間と語り合える談話室・・と色々なスペースがある、そしてそこには絶えず視覚障害者の笑顔があり、笑い声が響く、そんなラッキーハウスを建ててみたいですね。
久保 京都にはラッキーハウスならぬライトハウスがありますよ(笑)。でも、いろいろな地域に、岡田さんが考えておられるようなスペースがあればうれしいですよね。視覚障害者の笑顔が感じられる場所が、全国あらゆる地域にできること…私たち当事者が、目指していくべき課題のひとつですよね。