桜の魅力は蕾(つぼみ)から満開、散り始めから葉桜、そして新緑の葉につつまれている今の姿までも楽しめるところでしょうか。

さて、この桜の葉にはクマリンという芳香物質(あの桜餅の香)が含まれています。でもこのクマリン、他の植物の生育を妨げる働きがあり、桜の木の下では植物が育ちにくいのは、雨水がこのクマリンを含んで地中に浸透しているからといわれます。まさに桜が地中の養分を他の植物にとられないよう毒を撒いている。そう考えると日本人を魅了する桜もずいぶんと腹黒いようです。

毒を持つ植物は身近にもたくさんあります。水仙、鈴蘭、福寿草など可憐で儚げな花が強烈な毒を持っていることはよく知られています。なぜ毒を持つのか、またその毒がその植物を脅かそうとするものだけに効果を発揮するのかなどは十分に解明されておらず、植物の不思議の一つです。

ただ、動物は身を守るために移動することができますが、植物は動くことができません。根を張ったところで身を守らねばならず、毒を持つことが生き残るための戦略の一つであることは、桜の例からして間違いないようです。

そして植物の最大の脅威は人間であり、人を魅了する美しさも、実は植物の戦略かもしれません。

美しいけど毒がある。その美しさから大切にされるか、その毒性から手を出されないかあるいは根絶やしにされるかは人間次第。それでも何割かの確率で生き残れることを植物は計算しているようです。

人の世もサバイバルゲーム。生き残るには植物のしたたかさが役に立ちそうですが、そこは人たるもの、潔く生きたいものです。

(五十嵐 幸夫)