久保※同じ視覚障害をもつライトハウス職員が、視覚障害をもつ方々の「生の声」を、お伝えしていくこのコーナー。

記念すべき第1回は「かがやく視覚障害者の皆さん」のコーナーにもご出演いただいた岡田太丞(おかだ たいすけ)さんに、お仕事のことや白杖についてのことなど語っていただきました。

第1回 岡田太丞(おかだ たいすけ)さん

久保 働く一視覚障害者として、特に職場内で大切にしていることや意識してやっていることなどありますか?
岡田 岡田さん優先順位があるわけではないですが、いくつかあげてみます。まず、白杖を持って行動する私の姿を、少しでも多くの職員の目に焼きつけることで、視覚障害である私の存在を、より多くの職員に知ってもらうことですかね。
私は、折りたたみ式のものではなく、目に留まりやすい直杖を普段から使っています。そして仕事中は机の横のキャビネットに立て掛けて、周りの職員全員の目に留まるようにしています。職員が利用する食堂でも、やはり、多くの職員の目に焼きつける為に、白杖は立て掛けております。その他、エレベーター、トイレ、医務室等、様々なところで、白杖を持つ私の姿を目撃されるように努力(?)しています。
久保 会社の中では、白杖を使って移動する岡田さんの姿が、ごく自然なものになっているんでしょうね。
岡田 次に、メールを利用しての広報活動ですかね。視覚障害の広報活動と言えばおかしな話ですが、私は日々、様々な情報メールを、国内外にいる職員に流しております。そのメールの冒頭に、目が不自由である旨を記載しております。
久保 メールのやり取りだけだと、岡田さんが視覚に障害をもっていることは分からないですもんね。少しでも触れておくと、同じ会社内に、視覚に障害をもった同僚がいるということに気づいてもらえますね。
岡田 そうですね。それとともに年末の御用納め時など、少し余裕がある時に、障害者に関する作文、例えばその年の内閣府の入選作品なんかを、私の情報の利用者へ配信しています。普段あまり障害ということに縁のない職員に、少しでも障害というものの理解を深めてもらうきっかけになれば、と考えています。このような取り組みが、会社の業績の為に貢献する、何かプラスになるものをもたらすことにつながればうれしいです。視覚障害者であっても、常にそういった意識を持ちながら仕事をしていくことが大切だと思うんです。
久保 では、他の職員とのコミュニケーションについては、どうですか。
岡田 可能な限り部署の宴席には出席するように心掛けています。これも決して上手く出来ているか分かりませんが、普段の何気ない会話から、例えば、Aさんは野球が好きである、Bさんはジャニーズが好きである、Cさんはラクビーが好きである、等々、同じ職場の職員の趣味等を頭に入れて、出来る範囲ですが、話す相手によって話題を変えるように心掛けています。
久保 なるほどー。そうすれば、話も盛り上がりますし、いろいろな分野のアンテナをはっておくと、同僚との関係だけではなく、仕事にも役立つこともありますからね。ところで、いつも前向きな岡田さんですが、その前向きさはどこから生まれてくると思われますか?
岡田 私は他の人からよく「岡田さんは強いですね。そして前向きですね・・」等々のお言葉を頂きますが、私自身は、自分のことを決して強い人間だとも、前向きな人間だとも想っていません。視力を失った時には悲しかったですし、何度も心が折れそうにもなりました。
でも私には養うべき家族がいます。失明した時、娘は小学3年生でした。その娘が、当時、見えない私の手をとって、近所を一緒に散歩してくれたことがあったんです。その時に「悲しんでいる場合ではない、この子が成人するまでは、何が何でも働いて働いて、家族に苦労はさせない」と強く想ったことが根底にあるかもしれません。
久保 そのようなことがあったんですかー。
岡田 私は人の前で、敢えて厳しい強気な発言をすることがありますが、それは、人前で発言することによって、ある意味、自分を追い込むというか、自分に鞭を入れています。ただ強がっているだけなんです。
あと、人生や仕事の結果の方程式=能力×熱意×考え方という言葉が好きなんです。能力や熱意がいくらあっても、最後の考え方がマイナスであれば、掛け算であるがゆえに、全てはマイナスになります。ですから、その考え方をポジティブに、プラス志向にと自分の気持ちを持って行くように心掛けています。
やはり目が見えないということで、どうしてもマイナスに考えてしまうこともありますが、そういった時には、「アカン!プラスや!」と、自分に鞭を入れております。あまりに鞭ばかり入れておりますので、身体中が赤く脹れ上がっており、痛くてたまりません(笑)
久保 視覚障害者である岡田さんの存在をアピールしてくれている白杖についてですが、中途視覚障害の方々の中には、白杖を人前で使うということに少し抵抗感をもっておられる方もいます。岡田さんから、そのような方に何かアドバイスがありますか?
岡田 私も今は普通に白杖を持って歩いておりますが、目が見えなくなった頃は、それはそれは往生際の悪い視覚障害者でした(笑)。眼科医から「症状は固定状態です」と、回復の見込みがないことを告げられても、障害者手帳を取得して白杖を持つと、自分が病気に負けるような気がして嫌だったのです。
久保 そのようなお気持ちの中で、白杖を持とうと思われたきっかけは何ですか。
岡田 まずは、会社への復職の為に単独での歩行訓練を始めたことがきっかけですかね。それにこんな話も聴いたことがありました。白杖を持つことに抵抗感があったのに加えて、見えにくいものの、何とか白杖なしで歩ける状態だった視覚障害の女性が、知らない子を蹴飛ばしてしまった時の話です。慌てて駆け寄って来た子供の母親に、「自分は目が見えにくい」と謝ったそうですが、白杖を持たないで歩いていたので、全く信じてもらえなかったそうです。
久保 私も似たような話を聴いたことがあります。
岡田 もちろん、白杖を持っていても、加害者にはなり得る訳ですが、やはり、相手に与える心象というものが、白杖の有無で180度違うということです。この話を聞いて、やはり考え方が変りました。
加えて、やはり単独歩行の場合、白杖を持っていると、周りの方々がよけて道を開けてくれるケースが多くあるようですので、色々な面で自分を守ってくれる最強のお守りになると思います。
久保 「お守り」という表現は、今から白杖を持とうとしている方々にとって、強い支えになりそうな言葉ですね。
岡田 ただ単にご本人に抵抗感があるというだけの理由でしたら、騙されたと想って使って欲しいですね。最初は折りたたみ式の白杖で、歩きにくい人込みの中だけで使うといったことでもいいのかなと思います。それだけでも、きっと白杖の持つ魔法を理解して頂けると思います。
久保 岡田さん、貴重なお話ありがとうございました。