皆さんご存知の通り2011年7月に、これまでのアナログによるテレビ放送は写らなくなり地上デジタル放送(地デジ)に変わります。このことに対して今世間では様々な話題が飛び交っていますが、視覚障害者にとって必要な情報があまり知らされていないのが現状です。

 そこで今回から3回に渡って、私たち視覚障害者の視点で地デジに関する情報を整理してみたいと思います。まず今月号では、地デジではどんなことができるのか、視覚障害者にとっての問題点などを掲載します。

1.大きな二つの誤解

 今、地デジについて様々な報道やPRが盛んに行われていますが、その中で、特に視覚障害者の中には大きな二つの誤解が生じていると感じています。

 まず一つは、「新しいテレビを買わないと見られない」と思っておられる方が意外に多いということです。もちろん今あるテレビだけでは見ることはできませんが、それにデジタルチューナーさえ接続すればとりあえず視聴することは可能です。尚、アンテナ工事が必要な場合がありますが、そちらについては次号でご説明します。

 新しくテレビを買い換えると、安くても4・5万円はすると思いますが、デジタルチューナーだけを購入するのなら5千円くらいから手に入るようになりました。又、11月号でご案内を掲載させていただきましたが、一定の用件を満たす方には、チューナーの給付やアンテナ工事が無償で行われます。新型テレビに比べれば音や画像の質は落ちますが、とりあえず視聴するということならこれらの方法で十分対応は可能です。

 次に、新しいテレビで地デジを見ればいろんな機能が使えるという誤解です。ただ、これは健常者にとっては使える機能が、視覚障害者にとっては使えないということから生じています。謳い文句になっている多くの機能が、視覚障害者には使えなかったり、使いづらかったりするという現実を知っていただく必要があります。

 それでは、地デジ対応の新しいテレビにはどんな機能があるか見ていきます。

番組表: 現時点から1週間後までの番組を表示させ、その詳細な内容を見たり予約したりする機能です。しかし、三菱電機の一部の機種を除いてはこの画面が音声化されていないため、多くの視覚障害者が利用できません。
データ放送: ニュースや天気予報をいつでも見られる機能、現在放送中のスポーツ中継などで試合結果や選手の成績などを見る機能、ドラマの出演者の紹介を見る機能など、いろんな情報を表示させることができます。しかし、音声読み上げに全く対応できていないため、視覚障害者が単独で利用するのは困難です。
双方向サービス: インターネットや電話と接続することで、リモコンから放送中の番組にクイズの答えを送ったり、アンケートに答えられたりする機能です。最近は、NHKの紅白歌合戦でもこの機能を利用して、家庭にいながら赤組か白組に投票することができます。しかし、この機能も音声読み上げに対応していないため単独での利用は困難です。

 又、ドラマや映画の場面解説や外国語によるインタビューの吹き替えなど、視覚障害者にも内容の理解が可能になるような副音声による解説放送が、デジタルになればもっと充実すると言われてきましたし、私たちも期待していました。しかし現実は思うように進んでおらず、特に民間放送局では読売テレビの「それいけ!アンパンマン」や「笑点」など数番組にとどまっています。

 このように、現在視覚障害者(特に音声を頼りに使用する人)にとって、地デジのメリットはとても少ない現状です。今後は、私たち視覚障害者もテレビを見ているということをより幅広く放送関係者や市民の皆様に伝えることにより、少しでも使い勝手が改善されるよう取り組んでいく必要があります。

 来月号では、実際に地デジに対応するための具体的な方法についてご紹介いたします。