京都ライトハウス 新船岡寮(仮称)基本構想 平成25年7月 社会福祉法人 京都ライトハウス 目次 1.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 2.取組の経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1  (1)現地建替え基本計画の策定  (2)現地建替え基本計画から特別養護老人ホーム併設の複合施設建設へ 3.視覚障害高齢者の状況について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2  (1)高い高齢化率  (2)視覚障害高齢者の施設ニーズに関するアンケート調査結果  (3)視覚障害高齢者の特別養護老人ホーム等への入所見込推計 4.盲養護老人ホーム「船岡寮」の状況と課題について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4  (1)施設の状況  (2)入所者の状況とその支援・介護の状態  (3)現船岡寮での入所者のくらし  (4)現船岡寮の入所待機の状態  (5)現船岡寮の改善すべき主な課題と改善の方向 5.複合福祉施設の整備に向けて ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 6.「視覚障害高齢者にやさしい施設」とは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7  (1)安心して行動できる工夫  (2)快適に過ごせる工夫  (3)防災力を強化した建物 7.各施設の概略・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10  (1)盲養護老人ホーム「船岡寮」・特定施設入居者生活介護  (2)特別養護老人ホーム  (3)ショートステイ  (4)デイサービス・訪問介護・居宅介護支援  (5)地域交流ができる施設など 8.「安定した運営」に対する工夫・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11  (1)スタッフが見守りやすい建物への工夫  (2)維持管理費用の負担を減らす工夫 9.基本構想実現のために・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 (1)施設整備敷地について  (2)施設整備資金について 10.おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 1.はじめに    社会福祉法人京都ライトハウスは、築後39年を経て老朽化した盲養護老人ホーム「船 岡寮」での様々な課題を解決するために、現地における改築を目指して取り組んできまし たが、本館建物の近辺で仮移転施設の確保ができないなど、現地建替え実現の見通しが難 しい状況にあります。  一方、盲養護老人ホーム「船岡寮」の解決すべき課題は、老朽化し現在の生活水準に合 わない施設・設備から派生する問題だけでなく、入所者の介護の重度化から派生する問題 も併せて生じてきています。  介護の重度化から派生する問題というのは、特養レベルの介護を必要とする入所者の介 護に追われて、本来、盲養護老人ホームとして行うべき、趣味や日常生活を楽しみ、生き 甲斐を感じながら暮らすことへの支援が手薄になってしまっていることです。  この原因の一つとして、入所者が、視覚障害ゆえに、一般の特別養護老人ホームに移る ことに不安を感じてしまうことが挙げられます。そして、この不安感は、在宅の視覚障害 高齢者の方々においても同様と考えられます。  京都ライトハウスは、このような状況をその根本から解決するため、盲養護老人ホーム 「船岡寮」の改築に併せ、視覚障害当事者の永年の夢である視覚障害高齢者が安心して入 所できる特別養護老人ホームとの複合施設を建設・運営するという困難ではあるがい目 標に敢えて挑戦します。 2.取組の経緯    (1)現地建替え基本計画の策定  1997年からスタートした京都ライトハウス本館の改築整備(2004年竣工)時に、 老朽化した盲養護老人ホーム「船岡寮」の改築も検討されましたが、敷地面積の制約や 資金面の理由などから、船岡寮の改築は積み残しの課題となり、厨房の本館移転に伴う 食堂の改修・拡張,本館との接続確保による図書館や喫茶利用などの利便性の向上改善 に止まりました。  他方、船岡寮では2006年10月に介護保険を利用する特定施設の指定を受けると ともに訪問介護事業所「ヘルパーステーション『ふなおか』」を開設することにより介 護サービスの充実を図りました。その結果、加齢とともに介護が重度化する入所者を一 定程度受け止めることができるようになりました。  しかし、入所者の高齢化による介護の重度化が一層すすみ、養護老人ホームとしての 支援・介護の範囲を超える状況となってきたことや、現施設の老朽化がより進んだこと から、2008年11月に、現地において建替える「京都ライトハウス盲養護老人ホーム 『船岡寮』改築基本計画」(以下「現地建替え基本計画」という。)を策定しました。 (2)現地建替え基本計画から特別養護老人ホーム併設の複合施設建設へ  現地建替え基本計画では、盲養護老人ホームを新しい施設基準に基づき現地で建替え ることにより、老朽化した施設がもたらす諸課題を解消することとし、特別養護老人ホ ームの整備は敷地面積の制約などから2次計画に位置付けました。  現地建替え基本計画策定以後、具体的な検討を進め、建設期間中に入所者が生活する 仮移転施設を探し続けましたが、仮移転施設といえども50人が生活する福祉施設の確 保は、その規模や費用が膨大であり、約1年半という比較的短期間の借地或いは借家の できる物件を見いだせない状態が長く続きました。  そのような状況の中で、現地建て替えにこだわらず、盲養護老人ホームの移転に併せ て特別養護老人ホームを併設することにより、福祉施設の中で唯一の視覚障害高齢者措 置施設である盲養護老人ホーム「船岡寮」の果たす役割を一層高めると共に、視覚障害 高齢者が安心して入所できる特別養護老人ホームを作りたいと考え、2次計画に位置付 けていた特別養護老人ホームなどとの複合施設の建設(以下「移転新築方式」という。) を中心に検討を進めてきました。  なお、移転新築方式での施設整備を図る場合は、点字図書館等の京都ライトハウス本 館施設を利用したいという入所者の思いが強いことから、可能な限り京都ライトハウス 本館に近い場所への移転を前提とする必要があります。   3.視覚障害高齢者の状況について (1)高い高齢化率    京都府全域(京都市を含む。以下同じ。)の2010年の国勢調査によると、総人口は 約263万人、うち65歳以上の人口は約61万人(23.4%)となっています。    また、京都府全域の総人口は、2006年の267万人をピークに減少に転じています が、高齢化率は、1995年の15%が、2011年では23.7%、2035年には32.3% 程度まで上昇すると予測されています。    一方、2011年度末の視覚障害者の数は、京都府域が4,339人、京都市域が6,462 人で、京都府全域の視覚障害者数は、10,801人となっています。    この京都府域の視覚障害者4,339人中3,278人が65歳以上で、高齢化率は、 75.4%と相当高い状況です。京都府全域の65歳以上の視覚障害者数は、京都府域の 高齢化率をもって推計すると、約8,000人と見込まれます。 (2)視覚障害高齢者の施設ニーズに関するアンケート調査結果  京都府視覚障害者協会の会員(約1,200人)のうち無作為抽出の220人及び現船 岡寮の入所者28人に対し、2010年10月に特養などの施設利用についてのアンケー ト調査を行いました。  この調査結果では、「視覚障害について理解のある特養があると良い」との回答は 86.6%でした。  「視覚障害について理解のある特養ができれば入りたいですか」との質問に対して、 「是非入りたい」という強い希望(25.8%)と、「入っても良い」(31.5%)との希望 を合わせると57.3%の方が入りたいとの意向を示されています。  しかし、「入りたいが経済的に難しい」(14.5%)という回答もあり、経済的な課題 があることも窺えた一方、「入りたいと思わない」(25.8%)という回答もありました。  また、「視覚障害に理解のある特養を作るためにどうすればよいか」との質問に対し ては,これまで視覚障害福祉の取組を進めて来た「京都ライトハウスが経営して欲しい」 との回答が62.9%あると同時に、「多くの特養に視覚障害についての研修をして欲しい」 との回答も33.9%あり、京都ライトハウスの直接経営による特別養護老人ホームの確 保と同時に、視覚障害の理解に立った介護サービスが提供できる特別養護老人ホームを 増やす努力も求められています。 (3)視覚障害高齢者の特別養護老人ホーム等への入所見込推計  京都府、京都市の養護老人ホーム・特別養護老人ホームの整備状況は表1のとおり、 養護老人ホームで定員865人、特別養護老人ホームで定員9,961人が確保されてい ますが、視覚障害高齢者のみを対象にしたものは盲養護老人ホーム「船岡寮」の定員 50人だけです。  視覚障害高齢者の特別養護老人ホーム入所対象者数を、前述の視覚障害高齢者数と高 齢者数に対する特別養護老人ホーム定員の割合から推計すると、130人(※1)とな り、住所地からの距離の問題等により、この全てが新船岡寮(仮称)に入所できるとは 見込めないので、仮に、この半数の方の入所を見込むと、65人の入所が見込めます。  また、残る半数の視覚障害高齢者が一般の特別養護老人ホームに入所されるとすると、 先述のアンケート調査にもあった「多くの施設に視覚障害についての研修をして欲しい」 という視覚障害特性を理解して対処、処遇できる施設を増やす努力も同時に求められて います。     (※1)計算式       京都府全域の視覚障害高齢者数  京都府全域の特養定員  京都府全域の高齢者人口 特別養護老人ホーム対象の視覚障害者推計数 8,000人 × 9,961人 ÷ 610,000人 = 130人 (表1) ◆養護老人ホーム等施設の整備状況 養護老人ホームの施設数及び定員 京都府域 4施設 定員290人 京都市域 8施設うち1施設は盲養護 定員575人(盲養護50人) 特別養護老人ホームの施設数及び定員  京都府域 83施設うち地域型は5施設 定員4,893人  京都市域 72施設うち地域型は10施設 定員5,068人  ※府及び市老協資料より引用(2012年度末現在) 4.盲養護老人ホーム「船岡寮」の状況と課題について (1)施設の状況  視覚障害高齢者のための盲養護老人ホーム「船岡寮」は、1974年に当時最新の施設 として、また、京都府全域で唯一の盲養護老人ホームとして整備・開所されました。(表 2参照)  建設当時は、視覚障害高齢者の暮らしの支援に必要な機能を備えた和室仕様の建物・ 設備でしたが、開設から39年の経過と共に施設が老朽化する一方、生活水準が向上し、 また、支援の考え方や介護の方法が進化することで、現代社会に相応しい暮らしを送る には不十分な施設・設備となっています。  10平方メートル余りの二人部屋での生活から生じるプライバシーの問題、男女共同 使用の狭いトイレ、浴室・脱衣室が狭いことで折角のお風呂がくつろぎの場になってい ないことや、介護の重度化に対応して導入したベッド設備がかえって入所者のくらしの 空間を狭めたことなどが課題となっています。  また、誰もが等しく使いやすいという視点〜ユニバーサルデザインの考え方は、開設 した当時には普及していなかったために、浴室・脱衣室の入り口に床段差があること、 トイレや洗面設備など車いすでは使いにくい設備となっているなど、現状においては建 物や設備の古さが支援の内容にまで影響を与えている状態にあります。   (表2)   ◆現船岡寮の施設概要 ・盲養護老人ホーム(定員50人) ・昭和49年4月竣工 ・鉄筋コンクリート造3階建て ・敷地面積 約1、190平方メートル ・延床面積 約1、240平方メートル ・ストレッチャー対応型エレベーター1基 ・各階をスロープで接続など移動に便利な配慮をしている (2)入所者の状況とその支援・介護の状態  船岡寮の介護度の状況は、自立の方から要介護2までの方が30人(60%)、要介護 3以上の方は20人(40%)で、平均介護度は2.97ですが、過去5年間の推移を見 ると要介護度は3前後にあり、養護老人ホームで想定する介護状況を超えた状態である といえます。(表3及び4参照)  また、2012年度末での夜間のポータブルトイレ使用者は23人(46%)、常時の車 椅子使用者は23人(46%)で、一時使用を含めると29人(58%)という状況にな っています。 (表3)  ◆現船岡寮入所者の介護認定状況 2008年度の要介護1は6人、要介護2は11人、要介護3は8人、要介護4は3人、要介護5は1人、未認定は21人、平均介護度は 2.37 2009年度の要介護1は4人、要介護2は6人、要介護3は10人、要介護4は4人、要介護5は6人、未認定は20人、平均介護度は 3.00 2010年度の要介護1は3人、要介護2は9人、要介護3は6人、要介護4は7人、要介護5は6人、未認定は19人、平均介護度は 3.10 2011年度の要介護1は3人、要介護2は10人、要介護3は3人、要介護4は5人、要介護5は8人、未認定は21人、平均介護度は 3.20 2012年度の要介護1は6人、要介護2は5人、要介護3は9人、要介護4は6人、要介護5は5人、未認定は19人、平均介護度は 2.97 (表4)  ◆現船岡寮の入所者の状況(各年度末の状況) 2008年度の平均年齢は80.5歳、地域内訳は京都市35人、京都府5人、他10人 2009年度の平均年齢は81.5歳、地域内訳は京都市36人、京都府6人、他8人 2010年度の平均年齢は81.6歳、地域内訳は京都市37人、京都府5人、他8人 2011年度の平均年齢は82.3歳、地域内訳は京都市40人、京都府4人、他6人 2012年度の平均年齢は82.4歳、地域内訳は京都市41人、京都府3人、他6人 (3)現船岡寮での入所者のくらし  視覚障害高齢者の方々が「すまい」の場として暮らしている船岡寮では、居室はでき るだけ介護度や相性の合った人の組合せとなるよう配慮するとともに、共同トイレや浴 室、洗面設備使用のルール作りによってできるだけ快適に暮らしていただけるようにし ています。  入所者の大きな楽しみである食事では、その人に合った調理方法を用い、「ことば掛 け」をしながら食事を楽しんでいただいています。  また、四季折々の外出や小旅行による楽しみ、隣接するライトハウス本館の点字図書 館や喫茶室の利用などにより、その人に合ったその人らしい暮らしを送っていただける ように気を配って支援しています。    しかしながら、生い立ちや習慣が違う人が、同じ部屋で日常生活を送るという二人部 屋の基本的な問題は存在し、夜間のナースコールや介助の音にも相互に気を使う状態が 見られ、ポータブルトイレの使用においてはプライバシーや尊厳に関わる問題に加えて 臭いに対する気兼ねも発生しています。  このような状況の中で支援・介護を行っていますが、要介護度4以上のADL(※2) が低い方への支援・介護に時間と手間が必要になり、養護施設として本来行うべき入所 者の趣味やクラブ活動に対する支え、外出、買い物などの楽しみなど、日常生活での自 立した豊かな暮らしへの支援が充分に行えていない状況にあります。 (※2) ADL(Activities of Daily Living)とは、日常生活を営む上で普通におこなっている行 為・行動をあらわし、要介護者がどの程度自立的な生活が可能かを評価する指標として使われ、 食事や排泄、移動、入浴等の基本的な行動に対して、ADLが高いとは「介護を必要としない」 と見られています。 (4)現船岡寮の入所待機の状態  1974年の開設以来、今日まで定員割れは無く、2013年3月現在で定員50人に 対して待機者が27人あります。  この入寮待機者の地域分布は、京都市域21人、京都府域4人、大阪府2人で、介 護度分布では要支援1〜2が4人、要介護1〜2が14人、要介護3が6人、未申請 3人の状況です。 (5)現船岡寮の改善すべき主な課題と改善の方向  ア 施設・設備面  施設・設備面からみた課題としては、二人部屋の問題、介護度に応じた入浴環境の 確保、ポータブルトイレの解消、施設内各所の段差解消などが挙げられます。  従って、現在の施設基準で求められている一人当たり面積10.65平方メートル 以上の個室(現在のほぼ2倍の面積)を確保し、ユニバーサルデザインに配慮した施 設・設備とすると共に、視覚障害から生じる不自由や不便さを軽減する工夫を行うこ とにより、盲養護老人ホームとして相応しい施設・設備の整備を目指します。  イ 支援・介護面  施設・設備面の改善によって、支援・介護面の多くの課題が解消できますが、ADL が低い方への支援・介護に手が取られることによってADLの高い入居者に対する豊 かな暮らしへの支援が不充分となる課題は残ります。  また、船岡寮入所者や在宅の視覚障害高齢者の気持ちとして、一般の特別養護老人 ホームへの入所に不安を感じるという声を多く聞いています。  従って、視覚障害特性を理解した対処、処遇ができ、ADLの低い視覚障害高齢者 が安心して入所できる特別養護老人ホームを確保することにより、盲養護老人ホーム においては、比較的ADLの高い視覚障害高齢者が、安心して豊かな暮らしを送れる 盲養護老人ホーム本来の支援を目指します。 5.複合福祉施設の整備に向けて   視覚障害高齢者の介護ニーズとして、盲養護老人ホームでの豊かな暮らしへの支援が求 められていると同時に、特別養護老人ホームに対する入所ニーズがあります。  そこで、視覚障害高齢者の介護ニーズに応えられる、モデルとなる特別養護老人ホーム を整備します。  一方、地域とのかかわりも重要であり、周辺地域への在宅介護サービスのニーズにも応 えられる「複合福祉施設の整備」を図ります。  また、視覚に障害のない高齢者の方に対する介護の担い手としても、サービス提供を 行います。  整備を目指す次の各施設を関連付けることで、多様な介護ニーズに応えて行きます。 ・ 盲養護老人ホーム・特定施設入居者生活介護(継続) ・ 特別養護老人ホーム(新設) ・ 短期入所生活介護(ショートステイ)(新設) ・ 通所介護(デイサービス)(新設) ・ 居宅介護支援(新設) ・ 訪問介護(ホームヘルプサービス)(継続) 6.「視覚障害高齢者にやさしい施設」とは   京都ライトハウスの創立者である鳥居篤治郎は、「盲目は不自由なれど、盲目は不幸に あらずと、しみじみ思う」と言いました。  今回目指す複合福祉施設の特性は、「視覚障害高齢者にやさしい施設」であり、高齢で あることに対する配慮に加えて、視覚障害ゆえの不自由さをできるだけ感じることなく、 幸せに暮らしていただける施設です。  そのため、ソフト面では、京都ライトハウスや船岡寮がこれまで培ってきたノウハウ を活かし、視覚障害の特性を理解した接し方やきめ細やかな気配り、また、その人の障 害の状態やその時々の状況に応じた様々な情報を届けることで、情景が心のなかで描け るような「ことば掛け」などにより、「見えない、見えにくいことから生じる不安」を取 り除き、「自分らしい生活、自分らしく暮らせる場」の提供をします。  ハード面では、分かりやすい建物構成、触覚や聴覚などから情報を得られるような様々 な配慮、見えにくさを補う色彩や照明環境などに配慮した施設作りを目指します。   ハード面で特に考慮する事柄として、下記の事項に留意します。 (1)安心して行動できる工夫    「見えない・見えにくい」という特性を補う安心・安全への工夫として、以下の5点 の考え方を採りいれます。   ア シンプルな動線構成     単純で判りやすいプラン配置を採り、方位角の把握が容易な直交を基本とした動線 構成とします。   イ 段差や突出物のないバリアフリーな空間づくり  床面の段差を設けず、壁面にはできるだけ突出物を設けない工夫を行い、鋭角を 避ける空間構成とします。   ウ 安心・安全に行動するための誘導  廊下通行時における「お互いの声掛け」等のルール化を確立するとともに、視覚障 害者が認識しやすい案内サイン等の誘導設備を併用することにより安心・安全な施設 となるよう工夫します。  入所者・利用者が危険な場所を認識でき、安心・安全に行動できるよう、基幹設 備としての案内サイン誘導として、手すりによる伝い歩き誘導や点字タイルの誘導・ 警告等を設置します。   また、補完設備としての目印案内、音声・音響案内等による誘導をします。   エ わかりやすい触知情報の提供   スイッチ、コントロールボタンなどは触知でき、統一された位置関係にあるよう工 夫します。  また、手先・足元の感触から自然に伝わる位置情報は安心につながることから、 場所別に異なる感触の壁材や床材を選択するなど、わかりやすい触知情報の工夫をし ます。     オ わかりやすい色彩情報の提供  床や壁色のコントラストや色彩に配慮して空間把握をしやすくすることで、階段 などの危険な場所の情報や、安心して移動するための位置情報が得られるように工 夫します。 (2)快適に過ごせる工夫    自らの居場所がごく自然にわかる工夫と共に、心地よく穏やかな時間を過ごせる「す まい」としての環境整備を図るために、以下の6点の工夫をします。   ア 音や声が認識しやすく、快適に過ごせる室内環境とします。  視覚以外の感覚が重視されることから、これらの感覚が生かされる室内環境としま す。特に声が聞き取りやすいよう、反響や残響に配慮した素材選びや素材の配置の工 夫をします。 イ 壁材や床材は、触知情報に加えて、木のぬくもりや布の優しさなど、触れた手や足 から安らぎやぬくもりを感じられる「触覚のデザイン」を意識します。   ウ まぶしすぎず、ほどよい照明環境とし、心地よい落ち着きのある室内環境を工夫し ます。   エ 「見えにくい人」の保有視力を生かせるよう、床材や壁材の選択に関して、個人    スペースは心地よい落ち着きのある色使いとします。 共用スペースは床や壁色のコントラストや配色によって位置情報を得やすい工夫    を行います。   オ 現船岡寮の「匂いの花園」のコンセプトを受け継ぎ、植栽や植樹などによる緑や花 園の空間を屋上庭園などで確保し、季節の植栽の香りをつうじた、安らぎや心地よさ を感じられるよう、市街地に建つ施設であっても自然と触れ合える施設となるような 工夫をします。 カ 採光や通風を充分に確保し、自然を基本とした生活のリズムをつくり、天候や季節 の移りかわりを感じ取れる工夫をします。 (3)防災力を強化した建物  耐震性能や耐火性能を確保した建物とします。  被災時には被害の拡大を抑えられる工夫をします。また、入所者の避難を容易にする ための安全な区画や避難退避スペースを確保します。 7.各施設像の概略 (1)盲養護老人ホーム「船岡寮」・特定施設入居者生活介護    50人定員の「盲養護老人ホーム」を、できるだけ少ないフロア構成で整備し、広が りと憩いを感じられる空間構成とします。  自宅に当たる「すまい」空間は、トイレ・洗面設備完備の個室とします。  共用設備として、快適で安全な浴室を備えます。共用スペースとして、憩いの場、交 流の場を設け、フロアや屋上庭園を散歩したり、趣味の集いを持ったりできるスペース を確保し、「自分らしい生活」「自分らしく暮らせる」場を提供します。  船岡寮全体として、日々の暮らしを楽しめるよう、わかりやすさ、使いやすさ、暮ら しやすさを確保し、安心・安全な環境を提供します。  特に、利用者が安心して歩行できるように触覚や聴覚などで情報が得られるよう工夫 します。  支援においては、「ことば掛け」を大切にして、共通のハンディを持つ人たちが笑顔 と充実感を共有しあえることを願い、朝は爽やかに、昼ははつらつと、夜は穏やかに、 その人らしく日々を暮らせるように心掛けます。 (2)特別養護老人ホーム  なるべく多くの視覚障害高齢者を受け入れられる施設として、視覚障害者をはじめと した一定以上の介護の高齢者を対象とする「特別養護老人ホーム」を70人規模程度で 整備し、尊厳の保たれた生活が送れる「すまい」の場としての空間と環境を確保します。 このことにより、現船岡寮の入所待機状況の一定の改善も図ります。  この施設は、いわゆる「個室ユニット型」とし、「すまい」の空間となる個室の確保、 高い介護度も想定したトイレ・洗面設備・入浴設備の整備、憩いの場としての共用スペ ースの空間づくりを行い、10人程度で一軒の家に住むイメージとします。  視覚障害に対する配慮として、ユニット内はすまいに必要な工夫を取り入れます。併 せて、職員の「ことば掛け」や「いつもそばにいる」安心感により入所者との信頼関係 を築き、家庭的な雰囲気の中で尊厳のある老後生活を送っていただける場を提供します。 (3)ショートステイ    在宅介護のニーズに応えるために、ショートステイを特別養護老人ホームに併設して、 10人規模程度で取り組みます。 (4)デイサービス・訪問介護・居宅介護支援  通所によるサービスとして入浴・食事・各種介護・機能訓練(予防介護)・レクリエ ーション等を提供する「デイサービス」や、現船岡寮ですでに取り組んでいる「ヘルパ ーステーション『ふなおか』」での経験を生かし更なる充実を図る「訪問介護事業」、施 設の内外へのヘルパー派遣等によるサービス提供を確保する「居宅介護支援事業」にも 取り組みます。 (5)地域交流ができる施設など  地域の人々に開かれた「ふれあいの場」を設け、施設内と外部社会をつなぐ結節点と することで、地域の方と入所者との交流や、入所者間の交流をつうじ、地域の一員とし て、施設でのより豊かな日々の暮らしがおくれる場とします。    また、入所者の生活に必要な利便施設の確保にも取り組みます。 8.「安定した運営」に対する工夫 (1)スタッフが見守りやすい建物への工夫   入所者、利用者により良い介護を提供するため、短く機能的なサービス動線を確保し、 合理的で効率的な施設計画とするため、以下の工夫をします。    ・スタッフから見通しやすい空間とします    ・スタッフが動きやすい空間とします ・入所者、利用者とのふれあいが取りやすく、「ことば掛け」をしやすい空間とします  また、各施設の事業枠を超えたスタッフ同士の情報交換の場を設け、施設全体で助け 合える環境づくりを行います。 (2)維持管理費用の負担を減らす工夫  施設が長期にわたって安定した福祉サービスを提供するために、維持管理費用を抑え る工夫をします。  屋根・壁・開口部等の断熱強化により熱負荷を抑えて冷暖房費用を低く抑え、節水機 器の採用などによる省エネに努めます。  また、コストパフォーマンスにすぐれたエネルギー源の選定に加え、自然エネルギー 利用も採りいれ、運営負担の少ない建物の工夫をします。  更には、建物外面の保護や有効なメンテナンス手法の導入などにも配慮した建物とし ます。     9.基本構想の実現のために (1)施設整備敷地について  この基本構想で想定する施設規模は、延べ床面積を約6,000平方メートルと見積も っています。京都ライトハウス本館との有機的なつながりが入所者から求められている ことから、なるべく現在地に近い位置の建設敷地を確保すべく、長期の賃借を前提に、 行政当局と相談しながら探していますが、確保できていない現状にあります。  今後、この基本構想で掲げる視覚障害高齢者の夢の実現に、各方面のご理解とご協力 を得られるように訴えるなかで、できるだけ早期の敷地確保を目指します。 (2)施設整備資金について  この基本構想に基づく施設整備のためには、建設工事に関わる経費、備品等の購入経 費や開設時の運転資金などの諸経費を合わせて、約16億円の資金が必要と見積もって います。  行政からの補助金と自己資金で充当できるのは、約16億円の3分の1ほどと思わ れ、残りの金額は融資に頼ることになりますが、開設後の経営・運営を考えると非常に 厳しい状況です。  今後、この基本構想が目指す「視覚障害高齢者にやさしい特別養護老人ホームなどの 複合福祉施設」の整備に深いご理解をいただき、官公庁をはじめ、社会福祉にご理解の ある企業、各種団体、個人からのご支援・ご援助などをいただくことにより、この構想 が現実のものとして実現できるよう取り組みます。 10.おわりに    盲養護老人ホーム船岡寮の改築は実現すべき課題であり、視覚障害高齢者が安心して 入所できる特別養護老人ホームの建設は夢でした。    今回、2011年に迎えた京都ライトハウス創立50周年の記念事業のひとつに船岡 寮の改築を掲げて取り組む中で、視覚障害当事者の永年の夢である特別養護老人ホーム の建設・運営という非常に困難な目標に挑戦することとなりました。  この夢の実現のためには、様々な課題があり、また、不確実な要素があります。  しかし、夢という実態の無いものも、その姿・形、働きと意義を明確にして求め続け ることで、必ず叶えることができるものと信じます。  一般の特別養護老人ホームでの生活に不安を持たれる視覚障害高齢者に、安心して充 実した高齢期を過ごしていただける視覚障害高齢者にやさしい特別養護老人ホームな どの運営に、視覚障害者福祉に長年取り組んできた京都ライトハウスが持つノウハウを 活かしたいのです。  この基本構想で描く盲養護老人ホームと特別養護老人ホームなどが一体となる複合 福祉施設が、一日でも早く現実のものになることを切望し、京都ライトハウスは全力で 取り組んでまいります。   お問い合わせ先 社会福祉法人 京都ライトハウス 〒603-8302 京都市北区紫野花ノ坊町11  TEL 075-462-4400 / FAX075-462-4402 E-MAIL kaichiku@kyoto-lighthouse.or.jp